―ナトリウムは意味がなくなった―
2023年に創業したシカゴに拠点を置くBedrock Materialsは、ナトリウムイオン電池の開発を一時停止し、シードラウンドで調達した900万ドルの大半を投資家に返還すると発表した。資金不足や内部の問題に起因するものではなく、むしろ資金やチーム、技術開発や投資家との関係が良好な中での決断となった。テスラでモデル3のバッテリー開発に携わったCEOのスペンサー氏とスタンフォード大学で次世代電池の研究者であったCTOのラファエル氏がタッグを組んで設立し、イリノイ州知事からも歓迎を受け同州からの助成を受け取っていただけに、コミュニティからは驚きの声が上がるとともに、同社の難しい経営判断を称賛する向きもある。

市場環境の変化と経済合理性
当初、リチウムイオンバッテリーの原料リチウムの価格高騰とサプライチェーンリスクを背景に、豊富に存在するナトリウムは有望な代替材料と見なされていた。同社が設立された2023年は、その前年に比べてリチウム価格が10倍近く高騰していた。しかし、その後リチウム価格は大きく下落し、EV政策も不透明感を増す中、ナトリウムイオンは経済性の面で競争力を失ったと同社CEOは述べる。「エネルギー密度やコストでの優位性も限定的で、ニッチな用途か技術革新がなければナトリウムバッテリーの市場での成功は困難だと判断しました。」2023年に過去最高値を更新して以来、85%以上も暴落したリチウム価格が競争相手では、現在のナトリウムバッテリーは商業スケールでもコスト面で競争できないと語る。「ナトリウムの失敗は、技術的な失敗ではなく経済予測の失敗です。」
撤退と今後
Bedrockは事業の一時停止を「戦略的な撤退」と位置づけ、チームや設備、資金を他の有望な気候・素材分野に再配置する方針とのこと。同社のチームからすでに新たなスタートアップが生まれ始めており、今後も知見を共有しながらコミュニティに学びを還元していく意向だ。